出生前診断の件数が10年で2倍に。現状や問題点を解説!

 「出生前診断」という言葉を知っていますか?出生前診断とは、産まれる前に赤ちゃんの遺伝的異常や先天性の病気・奇形の有無を検査する診断のことです。先天性疾患児の発生率は2.3%と高く、その中にはダウン症や口唇口蓋裂なども含まれます(口唇口蓋裂は落合陽一さんのお子さんが罹患されたものですね)。

 検査方法はさまざまです。超音波検査をはじめとして、胎内の羊水や絨毛、さらに胎児の血液等、さまざまな検査が行われています。さらに、正確性の高い新型出生前診断=NIPTとよばれる検査方法も導入され、ますますバラエティに富む(?)ようになりました。

 

 

1 出生前診断の現状

1-1 出生前診断の現状

1-1-1 出生前診断は増加傾向

 出生前診断は、10年前にはメジャーな診断ではありませんでした。以下のグラフを見てください。

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 これは、出生前診断の件数推移を示したグラフです。これによれば、2006年時点で29300件だった診断件数は、16年には70000件を超過しました。倍率にしておよそ2.4倍です。

 このように、診断件数は急速に伸長しています。ところが、国内の妊婦全体に占める件数の割合は1割未満と、決して多くはありません。倫理や信条の面で出生前診断を受けないと決めている方も少なくないと考えられますが、予防医療などに応用できるなどの利点があるので、個人的にはもう少し普及してもいいんじゃないかなと思います。

 

1-1-2 海外における出生前診断

 ちなみに、海外では出生前診断がかなりメジャーになっている国もあります。たとえば英国やフランス、デンマークなんかは、2010年の時点で全妊婦中の診断件数割合が7割を超えているそうです。

 

1-2 出生前診断増加の背景

 ところで、出生前診断の件数が増加した背景には何があったのでしょう?

 それは、高齢出産の増加です。一般に妊娠は、母体が高齢であればあるほどさまざまなリスクを伴います。そこには、母体そのもののリスクもありますが、産まれてくる赤ちゃんの身体に対するリスクもあるのです。そこで、高齢出産の場で出生前診断を下すことによって、そのリスクを事前に認識することができるのです。

 

 さて、高齢出産はどれだけ増加してきているのでしょうか?

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 上のグラフ*1を見ると、35歳以上の妊娠が急増していることがわかります。現代の結婚事情について、「晩婚化」という言葉が使われることがありますが、この現実はまさにこの「晩婚化」が如実に投影されたものですね。

 

2 出生前診断の問題点

 出生前診断は、胎児に潜む先天的な異常を解明する点で非常に優れています。しかし、これには批判も存在します。

 

2-1 出生前診断に対する批判

 「命の選別につながる」という批判があります。

 確かに、そういった点は否定できません。出生前診断を利用することは、これから生まれてくる赤ちゃんの異常を発見することと同義です。そうなると、わが子に先天的異常を発見した親が、その子の養育を拒否する・もっと言えば「産むのを拒否する」ケースが発生しかねません。異常をもって産まれた赤ちゃんが、『コインロッカー・ベイビーズ』になってしまうかもしれないのです。

 

2-2 「命の選別」を防ぐための対策

 そこで日本産婦人科学会は、対策案を講じました。

 それは、出生前診断を受ける対象を制限するということです。「専門医がいて、かつカウンセリングが受けられる医療機関」で、「35歳以上の妊婦」に限定するのです。そうすれば、若者による無責任な子捨て・堕胎の心配が減りますし、カウンセリングを受けることによって安心して予防医療・治療にあたることができますね。

 

3 出生前診断のまとめ

 いかがでしたでしょうか。

 今回は出生前診断と呼ばれる特異な診断について簡単に解説しました。今後も件数は増加していくと思われますし、読者のみなさんの中には実際に利用する方がでてくるかもしれません。費用や実際の検査方法について詳しく解説しませんでしたが、それらについては他のメディアで分かりやすく示されています。そちらもぜひ合わせてごらんください!

 

 「命の選別」につながるおそれがある出生前診断。しかし、うまく利用できれば、親や産まれてくる胎児にとってこれほど心強い診断はありません。僕としては、出生前診断が今後もどんどん普及していくこと、そしてそれを使って命の選別をするような輩が殲滅されることを願うばかりです。

 

 

 ちなみに、さっき言った「コインロッカー・ベイビーズ」というのは、稀代の作家・村上龍の代表作のひとつです。

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)

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